感想文

読書・アニメ・映画・ドラマの感想、あと考えごと

あげくの果てのカノン最終回感想

 

 

 

 

なんつーか…こんな終わりか〜 と思ったので愚痴を述べます… 責難は成事にあらずだし、本気で批評したいならこういう展開にすべきだった、という代替案を提示しなきゃいけないんですけど、それはできないので単に悪口になってしまいますが、途中までは心の底からこの作品が好きだったからこそ最終巻が納得いかなくて、私の考えについて述べたいと思います。ネタバレを含みます。

 

作品というのは物によりけりではあるけれども、ある程度のテーマというものがあって、それに対する作者なりの答えが提示されるべきものだという考えが私にはあります。作家というのはあるテーマについて向き合って、凡人が辿り着けないようなところまで深く潜って行って、その先で何か答えのようなものを捕まえてそれを提示してくれると個人的に信じているところがあり、あげくの果てのカノンは、テーマに対する答えを提示してくれず行き当たりバッタリでみたいな感じで終わってしまったので…消化不良です。それから10年…じゃねぇよ…という気持ち。あとなんで本筋に関わってこない新キャラ出したんだろう…打ち切りになったのか?テコ入れ?人気あったのに?

勝手にわたしがこの作品が「人間は変化し続けるのに変わらない愛はあるのか?」というテーマについて向き合って答えを提示してくれるのだと期待してたのが悪いんだよな… 

 

私はこの作品が結構好きで、最終回が掲載されている雑誌と単行本と両方kindleで買ったので、どのように単行本において最終回が加筆修正されているかを確認し、その修正から作者がこの作品をどう扱ったのか考えたい。

 

最終回でカノンが同僚の女の子に先輩について尋ねられるシーン。

雑誌掲載版

 

f:id:AntoniGaudi:20180703054005j:plain

f:id:AntoniGaudi:20180703054026j:plain

 

f:id:AntoniGaudi:20180703054048j:plain

雑誌掲載時には、「先輩のことは恨んでるくらいだし…」と語る。表情も硬く、先輩に対してかつての信仰に似た感情だけでなく、怨みや憎しみのような感情も抱いていることがわかる。また、カノンという曲をみても心を動かされた様子はなく、やや無関心な表情をしていることから、先輩との思い出に触れても心動かされないぐらい、先輩のことは忘れてきている。そしてこのモノローグ「遠く離れて生きてきた」のあとは、「二度と、引き戻されないように.......」に続く。

 

単行本版
 

f:id:AntoniGaudi:20180703054732j:plain

f:id:AntoniGaudi:20180703054837j:plain

f:id:AntoniGaudi:20180703054851j:plain

対して単行本ではそのように答えるシーンはカットされ、代わりに(?)ゼリーが再び発見されたというSFっぽいシーンが挿入されている。これはなんでなんだろう。ゼリーがカノンの気持ちの象徴だとしたら、先輩と奥さんの愛の連携プレーによってボコボコにされて一度は消えたかのように思われたけど、水面下ではずっと生き延びていたということを示しているのかな?

そして「遠く離れて生きてきた。」のモノローグは、「……もう、」「二度と、引き戻されてはいけない...」に変更されている。

 

このようにカノンの感情については雑誌掲載時と単行本収録でかなり変化しているのて、その変更のすべてがカノンが10年間先輩のことを全く忘れられず今も大好き!という方向に修正されている。こういうふうに変更されてしまうと、10年も離れていられたのが不思議だ(絶対にどこかで先輩を思い出して奇行に走ってそうだ)し、ますます共闘っぷりを見せつけられたぐらいで10年も離れる決意ができた理由が謎になってしまう。このカノンなら、共闘してる先輩かっこいい♡もっと好きになっちゃう♡♡ぐらい言いそうじゃない...? 生涯支え合うと誓いあった夫婦に対して、ルールも守れず人の感情を慮る事もできなかった自分が恥ずかしく、彼らが羨ましくなるところまではわかるんですけど、それでなぜあのストーカー的愛から離れようと決意できるのかが納得行かなかった。

 

普通の女の子であったら、10年も離れてりゃどんなに崇拝的に愛していた人であってもどうでもよくなるし(「女は運命の恋を忘れられる」というキャッチコピーもありましたよね)、むしろ死ね最低男くらい思ってて当然だと思うので、カノンが恨んでいると語るのは不自然ではない…のですが、カノンは普通の女の子では無いので先輩のことを恨んだりはしないんじゃないかなぁ。というわけで単行本修正にあたってのカノンの感情の変化は私にとっては納得の行くものでした。先輩すきすきが変わらないのは納得いくけれども、10年間本当に先輩に対するアクションを何も起こさなかったのかなぁ。この雑誌掲載時と単行本収録時での変更から作者の方もかのんの恋愛感情が10年もつかどうかについてギリギリまで決めかねていたのかなぁという感じがします。

 

雑誌掲載版

 

f:id:AntoniGaudi:20180703060059j:plain

f:id:AntoniGaudi:20180703060616j:plain

単行本版

 

f:id:AntoniGaudi:20180703060117j:plain

 

 

f:id:AntoniGaudi:20180703060359j:plain

 

最終シーンは「ある日、 ゼリーが 襲来して」 の吹き出しが追加されて「勝手に死んでいった」という表現から「その時に死んだ」に変えられていて、死んだ両親へのやるせなさといった感情の表現がなくなっています。そして雨の情景の追加。

 

確かに「変わっていく人は変わらない愛を抱き続けられるか?」というテーマなのだとしたら、「変わらぬ気持ちを抱き続けられる人もいるが、それは恋ではない錯覚かもしれない」「生涯支え合おうとするその行為自体は輝かしい」というのがこの作品の答えなのかもしれないと、この感想を書いていて思いました。初穂さんが幸せならいいんだ俺は...