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天気の子はオトナ帝国の逆襲

 

天気の子を遅ればせながら見てきた。土曜の昼過ぎとはいえ客席はほぼ満員で本当に新海誠はブレイクしたんだなあと実感する。君の名は。はすごく楽しみにしていた割に映画を観る前に小説を読んだら全く好きじゃない感じだったので結局映画館では見なかった。だから、8年くらい新海誠のファンをやっている割に初めて映画館で彼の作品をみた。

 

結果、めちゃくちゃよかった。いやー、やっぱ新海誠大好き。

 

映像がものすごく丁寧で美しく、それでいてリアリティがあるというだけで映画として素晴らしくなってしまうのだと思う。幾原邦彦もさらざんまいや輪るピングドラムで現実の景色の上に物語を載せていたけれど、彼も新海誠も物語を観客に自分ごととして引き受けてもらうために現実の風景を使っているのだろう。いつも見ている風景がこれでもかこれでもかとでてきて、前半はその全てが雨である。暗い画面が続き、そこを日菜が突然晴れにする。我々はまるで”世界に色がついたように”明るくなる世界を観る。晴れにするという能力は一見地味だけれども、圧倒的に丁寧に描かれた背景のもとではすごい力であるということを無理やり納得させられてしまう。

 

この映画では暗い場所と明るい場所が常に対比されていて、切ないほどの気持ちになる。雨の中、びしょ濡れになった時の心細さ、雨宿りしたときのホッとする気持ち、お風呂に入ると芯から温まって心までほぐれるようなあの気持ち。雨の合間を縫って青空が見えた時の清々しくたまらなく嬉しいあの気持ち。雨の中と、明るく安全な室内。最初の帆高が須賀に助けられるシーンでも、暗い中にいた帆高が引き上げられた瞬間明かりの中に照らされる。安全な場所と、そうではない場所。

 

また言うまでもなく帆高と須賀も対になるキャラクターとして配置されている。大人と子供。失ってしまった、犠牲を受け入れることのできる人間と、まだ失うことを受け入れられない人間。社会に従い優先順位を変えられない男と、何もかも失ってでももう一度会いたいひとがいる男の子。クライマックス直前、穂高は須賀に銃を突きつけ、空を撃つ。このシーンで私はどうしてもクレヨンしんちゃんの「オトナ帝国の逆襲」のクライマックスを連想してしまったのだけれど、同じような人は他にどのくらいいるのだろうか?迫ってくるオトナたち、逃げようとする子供。子供は未来を諦められない。須賀は結局帆高の味方を衝動的にしてしまったけれど(結局彼は帆高を自分のように思っていたからこそ大事にしたくて大事にできなかったのだろう)、そのあとも後日談的に語られているように大人として責任をとって、少しづつ信頼を回復するために仕事に打ち込んだのだろう。夏美ちゃんがどうなったのかだけすごくきになる...

 

ラストシーンについて。天気の子では帆高は人柱に対して知らんぷりしている普通の世界を見捨てて、異常であっても日菜がいる世界に選び取る。「世界はもともと異常、自分のせいだと思うのはおこがましい」と須賀に指摘されるものの、帆高は世界を変えてしまったのが自分であることをはっきりと認識する。この映画がセカイ系と呼ばれる所以であると思う。自分の選択に責任を持つというか、逃げず向き合う姿勢を示したことは何故なのだろうか。私は正直ラストシーン直前まで、最近の集中豪雨や異常気象について、それが当たり前のものとして受け入れていく話(むしろ受け入れる以外に選択肢はない)という話になるのかと思いきや、最後の最後で「これは僕が選んだ世界、彼女とこの世界を選んだんだ」とモノローグが入っていてそうくるか、と驚いた。須賀が述べているように「日菜が戻ってきたことと、異常気象の相関はわかりません、もともと世界は異常だから」でまとめてしまうことだってできたはずである。実際に何度も「観測史上最悪とかいうけど観測してるのはせいぜい100年」「東京はもともと海の底だった」「天の狭間で間借りしているだけ」と抗えないものの象徴として天気は何度も大人たちによって触れられている。警察だってその抗えない“大人的な社会”の象徴的扱いを受けている。帆高は最初晴れを同じように願っていたが、やっと手に入れた夏の青空、普通の社会と普通の未来それら全部を否定して、自分の選択に向き合った。日菜は、力を失って晴れ女ではなくなってしまったけれど、それでも自分のために祈り続けている。これは世界と向き合えというメッセージなのではないだろうか?私は新海誠の作品に共通しているテーマは、「世界の美しさ」だと思っているのだけれど(雪の降る東京は悲惨なシーンでもあるのにその美しさにどうしても魅了されてしまった)、今回は世界と戦え、諦めるなというメッセージが込められているではないだろうか。

 

今回の作品は凪くんのかわいさとかかっこよさとか須賀さんの男らしくなさとか感情移入のしやすさ、夏美ちゃんのお姉さん感と日菜の無理やり作ったお姉さんのフリとかキャラクターそれぞれに魅力が溢れていて大好きだった。

 

もう一度くらい映画を観に行きたいな。