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きっと何者にもなれないお前たちに告げる、何者の感想

きっと何者にもなれないお前たちに告げる

 

輪るピングドラムではプリンセスオブクリスタルによりこの言葉が繰り返される。この言葉は幾原監督が考えた「一番言われたくないセリフ」なのだそう。

 

輪るピングドラム

 

 

 

bun-trend.net

 

 

何かになりたい、できれば名のしれたものになりたい何者かになりたい自分ではない何かにという欲求は思春期のみならずずっと人が抱えていく欲求のなのではないでしょうか。何者か、というのは今、ココに存在している矮小な存在ではなく、例えばクラスの一番の人気者のような、キラキラ輝く芸能人のような、情熱大陸に取材を受けている誇りを持って仕事をしている人のような。

 

 

何者 (新潮文庫)

何者 (新潮文庫)

 

 

何者は、そのような大学生の承認欲求と他者への嫉妬や対抗意識が最もよく現れる就活を取り扱って、若者の劣等感や自意識の歪みを読者に突きつけています。就活の場ではほんの僅かな人を除いて、理由も明らかにされないまま何度も落とされるという理不尽な苦しみを味わうことになります。自分はかけがえのない存在などではなく、代替可能な、若しくは社会にとって全く必要のない存在であるかのような気持ちに何度も陥りがちになってしまいます。終わりの見えない就活の中で、最初は情報交換をし協力しあっていた就活仲間とも差が開いてくる。そうすれば、劣等感や敵対心に駆られて、つい「友達の内定が出た企業の名前+ブラック」で検索してしまったり、そうして少しでもその企業の悪口を見つけられれば慰められてしまう自分がいる... そのような就活のリアルさを、朝井リョウは克明に切り取りそれが何からくるものでどう対処すべきなのか一つの答えを読者に提示しています

 

ちなみに2016年10月に佐藤健主演で映画化作品が公開されるそうです。

nanimono-movie.com

 

以下、あらすじと結末に関するネタバレを含む感想になります。

 

あらすじ

 

にのみやたくと@劇団プラネット @takutodesu

劇団プラネット第14回公園「羊を数え始めたあの夜のこと」....

 

コータロー!@kotaro_OVERMUSIC

緑川中軽音部、春日北高軽音部、御山大MUMU(元)部長!.....

 

田辺瑞月 @mizukitanabe

二見女子中、二見女子校、現在は御山大学で世界遺産について勉強しています。本と映画(最近は北欧のもの)とコーヒーが好き。....

 

RICA KOBAYAKAWA @rika_0927

高校時代にユタに留学/この夏までマイアミに留学/言語学/国際協力/海外インターン/バックパッカー/....夢は見るものでなく、叶えるもの

 

宮本隆良 @takayoshi_miyamoto

休学を経て、現代総合美術館学芸員堀井さん.....創造的な人との出会い、刺激に敏感。最近はコラムや評など文章を書くことに興味。人と出会い、言葉を交わすことが糧になる。

 

鳥丸ギンジ @account_of_GINJI

より刺激的な演劇を!”演劇”集団【毒とビスケット】座長。元劇団プラネットの演出家兼脚本家。今は独立し、誰にも想像できなかったものを表現しようと日々模索中。毒ビスを立ち上げてからは毎月一回必ず公演をしています。....

 

見たことあるー!!!!見たことあるよ、これ。

となった方は私の説明は不必要だと思いますが、これはTwitterのアカウントのbioである。わかりやすく言うと、自己紹介の部分。この小説では一番最初、題名の次にこの登場人物のTwitterのbioが並べられたページがあります。読者はまず最初にTwitterのbioをみるという形で登場人物たちに出会うこととなり、これが朝井リョウによって仕掛けられた読者に対する大きな罠になっていうことは後述します。

 

この6人がお互いに就活を通して、就活に立ち向かうために協力し合い時には反発しながら、物語が進んでいきます。

 

主人公の二宮拓人は、お調子者のルームメイト光太郎と、その元カノであり拓人が思いを寄せている瑞月、さらに瑞月の留学友達で拓人と光太郎の部屋の真上の部屋に住んでいる意識高い系女子、理香、最後に理香の彼氏で理香と同棲しているクリエイティブ系男子隆良と5人で集まっては就活の情報を交換したりお互いに進捗状況を話しあったりする就活対策として集まるようになります。

分析系男子である拓人は、理香の意識の高さや隆良の就活に対する姿勢について批判的な考えをもっていて、本人の前では決して口に出したり態度で示したりしないものの、劣等感も相まって彼らを軽く馬鹿にしています。

 

この小説をより面白くしている一つの装置がTwitterへの投稿が見られること。Twitterの呟きが随所に挿入されており、登場人物たちはお互いのTwitterの投稿を見て見ぬふりをてお互いの腹を探りあったり、ネット上で飾り立てた現実を投稿する相手に辟易したり、誰かの裏アカを見つけてしまって知るはずのなかった本音を垣間見てしまったりします。この小説はもう4年も前に出版されたものですが、Twitterをしている人ならば誰もが味わったことのある感情が表現されており、あるある、こういうこと、こういう人...といった感じで登場人物の誰かを現実世界に確かに存在している見知った誰かのように感情移入しながら読むことが出来ます。

 

感想 

何者になれるのか、なれないのか

この小説では何者というキーワードが繰り返し呈示されます。果たして人は何者かになることなんて本当にできるのか。子どもであり学生であれば半自動的に「小学生」から「中学生」「高校生」「受験生」「大学生」と名前を変えていく事ができますが、就職してしまったら「社会人」となり、此処から先は何らかのアクションを自分から起こさないかぎり自分についた名前を変えることが出来ません。だからこそ、就活が「何者」かになるラストチャンスのように主人公たちは捉えています。

 

この小説の恐ろしいところは読者を主人公に感情移入させ、「意識高い系」の理香や隆良をある種見下すように誘導させておき、ラストシーンで主人公ごと読者に、他人を「意識高い系」などと簡単にカテゴライズすることによって理解した気になる思い上がりを突きつけるところです。

最初ざあっと一読したときは、このどんでん返しに強い衝撃を受け、他者を独善的に決めつけることにより自分の劣等感を誤魔化し、怠惰や卑怯なところを正当化していないか内省しました。しかしこの感想を書くにあたって繰り返し読み直してみると、何者かになるってどういうことだろうな、と考え始めました。

 

私は小さい頃、セーラームーンにあこがれていてよくセーラームーンごっこをして遊んでいました。当時の私にとってはセーラームーンだけが中学生のサンプルであり、私も中学生になったらセーラームーンのマーキュリーみたいに賢く、可愛く、手足も長くなってその上タキシード仮面様みたいな彼氏ができるんだろうな、とぼんやり考えていました。(今思うと中学生に手を出す大学生ってどうなんだろう)

 

美少女戦士セーラームーンS

 

私にとっての「何者」は「セーラームーン」だったわけですが、いざ中学生になり気づきました。私は小さいセーラームーンごっこをしていたときの私の延長線上に存在しているに過ぎず、セーラームーンに登場するような「何者か」にはなれるはずもなかった、ということに。

進化は起こりませんし変身もできません。ある日突然石油王に街角で見初められて油田をプレゼントされることもないし、このブログが集英社の目に止まって突然小説家デビューすることもありません。人は何者かになれるのをただ漠然と待つのではなくて、なりたい自分を見定めて、ひとつひとつに丁寧に立ち向かっていくしかないのではないでしょうか。

 

 

その他就活ネタ

犬と魔法のファンタジー

 就活をネタにした作品で先日読んだもの。これはエルフやドワーフ、剣や魔法や冒険が存在するファンタジー世界なのに就活描写がめちゃくちゃリアル、という変化球な作品。こちらも何者と同じく心を折りにかかってきますが、何者よりは表現がソフトでファンタジー。読了感が良いのでつらい気持ちになりたくない就活生は何者は読まず、こっちを読んだほうが前向きな気持ちになれそう。

犬と魔法のファンタジー (ガガガ文庫)
 

 

 匿名ダイアリー

就活ネタでとても好きな匿名ダイアリーです。これは現在就職活動中の人にも響くし、社会で至極まっとうに働いている人々にも何かしら訴える物があるのではないでしょうか。

anond.hatelabo.jp

 

anond.hatelabo.jp

就活って本当に大変かつ肥大化した自己承認欲求が殴られたりするデッド・マーチなんだっていう... そのうち皆虎になるんじゃねっていう... 

 

就活ダイアリー

www.onecareer.jp

これは就職活動サイトONE CAREERが連載している就活記事のひとつ。何者に似たような就活群像劇になっているが、より就活生に対するアドバイスが含まれていて、彼らには特に嫉妬や敵愾心というものは見受けられません。でもこれはかなり優秀かつ良い性格の人間の話ばっかりなので、多少それが鼻につくところもあります。話半分に面白いところだけ、それ以外は飛ばし読みしながら読むと、何者では一切触れられていない就活生を採用する立場の人事の方々の考えもわかっておもしろいです。

 

 

まあ愚痴愚痴言わず頑張るしか無いっていうのがまとめです。辛いけれども別にそれは自分が悪いからとかそういうことではなく、就活っていうのはそんなもんであって諦めるしかないのです。受かる人が社会に必要とされているんじゃなくて、お金稼ぎがうまそう!うちの社風にあいそう!っていう理由なので別に落ちるからと言って貴方の人格に問題があるわけではないです。(たぶん。)というか就活中はそういうふうに考えていたほうが精神安定のためにいいと思います。私も就活したことないのでわかりませんが。就活したらまた就活についてネタをかき集めブログにしたいです。